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盛岡地方裁判所 昭和31年(ワ)235号 判決

原告

右代表者法務大臣

井野碩哉

右指定代理人検事

滝田薫

法務事務官 松浦養治郎

吉田栄作

大蔵事務官 徳能一男

岩手県岩手郡玉山村大字渋民第一五地割字駅三八番地

被告

株式会社 沼田清次郎商店

右代表者代表取締役

沼田清次郎

右訴訟代理人弁護士

永井一三

主文

被告は原告に対し金壱百四十七万八千六百八円を支払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告の請求の趣旨

主文同旨

被告の答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

第二、原告の請求の原因

一、東京都中央区日本橋小伝馬町二丁目五番地訴外三井木船建造株式会社(以下訴外会社という)は昭和二十六年九月十二日現在、別紙第一目録記載のとおり同二十五年度の源泉所得税を滞納していた。

二、また他方訴外会社は被告に対し右昭和二十六年九月十二日現在において、次の(一)の債権を、同年十月三十一日現在において次の(二)(三)(四)の各債権を有していた。

(一)  金一、〇二〇、〇〇〇円。

これは訴外会社が被告に対し同二十六年一月二十七日訴外会社大船渡造船所の宅地、建物、および諸設備を代金四、〇〇〇、〇〇〇円、弁済期同年三月二十日の約定で売渡し、訴外会社において右代金のうち被告より同年五月二日までに合計金二、九八〇、〇〇〇円の支払を受けたその残代金である。

(二)  金二二〇、〇〇〇円。

これは訴外会社か被告に対し同年二月十日岩手県気仙郡大船渡町字茶屋前一〇二番地家屋番号三四九番の三、木造瓦葺平屋建汽缶室一棟建坪二一坪および汽缶室内ボイラー設備一式を代金二二〇、〇〇〇円、弁済期同年三月三十一日の約定で売渡したその代金である。

(三)  金三二六、六九四円。

これは訴外会社が被告に対し同年二月十日ガス管、鉄板等一九点を代金四、〇〇〇、〇〇〇円ただし現品検収のうえ精算のこと、弁済期同年三月三十一月の約定で売渡し、現品検収の結果、金三二六、六九四円となつたその代金である。

(四)  金三六四、〇〇〇円。

これは訴外会社が被告に対し同年二月十日貨物自動車ほか三点を代金三六四、〇〇〇円、弁済期同年三月三十日の約定で売渡したその代金である。

三、そこで原告は仙台国税局国税徴収官白鳥安正をして昭和二十六年九月十二日前記滞納源泉所得税合計一、〇七五、七九七円および督促手数料一五〇円について訴外会社が被告に対して有する前記二の(一)の代金債権を滞納処分により差押え、その差押通知書は同月十八日被告に到達した。さらに、原告は仙台国税局大蔵事務官黒金泰美をして同年十月三十一日前同一滞納税金および督促手数料について訴外会社が被告に対して有する右二の(二)(三)(四)の各代金債権を滞納処分により差押え、その差押通知書は同年十一月一日被告に到達した。

四、前記各差押により原告は前記滞納税金等の限度において二、〇〇〇、〇〇〇円の各代金債権を訴外会社に代位して取立てる機能を取得するに至つた。

被告は原告の請求により同二十九年三月三十一日金一〇〇、〇〇〇円、同三十一年一月十八日金一〇〇、〇〇〇円合計金二〇〇、〇〇〇円を原告に対して支払つたが、被告、原告いずれも弁済の充当を指定しなかつたので、法定充当により右の代金債権に充当されたことになり、その結果二の(一)の代金の残額は金八二〇、〇〇〇円となつた。

五、原告は、

(一)  訴外会社同二十六年九月十四日、金一二、〇〇〇円一〇銭を納付したので、これを別紙第一目録一項の追徴税に充当した。

(二)  訴外会社が同二十七年三月十一日金一〇、七三五円を納付したので、これを同目録十二項の本税に充当した。

(三)  訴外会社が同二十七年三月二十六日金一一六、六〇〇円を納付したので、その内金七一八円一〇銭を同目録一項の加算税に、内金一一五、八七一円九〇銭を同項の追徴税に、残金一〇円を同項の督促手数料にそれぞれ充当した。

(四)  同二十七年六月四日、同目録一項の加算税の内金二二、七三三円、同目録一五項の加算税の内金二二、六五六円をそれぞれ免除した。

(五)  同二十九年三月三十一日被告より支払を受けた前記の金一〇〇、〇〇〇円の内金七三、六四四円を同目録二項の本税に、内金一八、二五〇円を同項の加算税に、内金一〇円を同項の督促手数料に、内金八、〇八六円を同目録三項の本税に、残金一〇円を同項の督促手数料に、それぞれ充当した。

(六)  同二十九年三月三十一日同目録一項の加算税の端数金七円九〇銭、三項の本税の端数金七円、四項の本税の端数金三円、六項の本税の端数金三円、七項の本税の端数金九円、八項の本税の端数金三円、九項の本税の端数金二円、一〇項の本税の端数金九円、一一項の本税の端数金六円、一二項の本税の端数金七円、一三項の本税の端数金四円、一五項の加算税の端数金四円、合計金六六円九〇銭を切捨免除した。

(七)  同三十一年一月十八日被告より支払を受けた前記四の金一〇〇、〇〇〇円の内金七七、〇〇〇円を一一等分して同目録四項ないし、一三項の各本税および一五項の加算税に、内金二〇、九四〇円を三項の本税に、残金二、〇六〇円を一四項の加算税にそれぞれ充当した。

以上によつて同三十一年十月三十一日現在における前記滞納税金の残額(利子税、延滞加算税、督促手数料および滞納処分費を含む)は別紙第二目録記載のとおり合計一、三六九、三三八円である。

六、右のほかに、訴外会社は、同三十一年十月三十一日現在において別紙第三目録記載のとおり同二十六年度の源泉所得税、金一〇九、二七〇円を滞納していたので、同日原告は仙台国税局長大蔵事務官山本多市をして前記の滞納処分による差押債権の取立金より交付を受けるため、交付要求の手続をした。

七、よつて原告は訴外会社に代位して訴外会社の同三十一年一〇月三十一日現在における別紙第二、第三目録記載の滞納税金等合計金一、四七八、六〇八円の限度において被告に対し前記二の(一)の代金債権額金八二〇、〇〇〇円および同(二)(三)(四)の各代金債権から順次支払を求める。

八、被告の抗弁事実は否認する。

(一)  前記各売買契約における売却物件は訴外会社、被告間ですべて特定していたものであり、しかも売却物件のうち動産はもちろん不動産も一切、訴外会社が契約直後に被告に引渡をしたものである。

(二)  同二十六年三月七日までには訴外会社は被告より僅かに金五〇〇、〇〇〇〇円を受領したのみで、過剰受領の事実はない。

前記二の(一)の売却物件のうち建物の一部の所有権移転登記手続の遅れたのは訴外会社から訴外産業設備営団に前記各契約の売却物件以外の物件の代金納付が遅れていたため事実上、同営団よりの移転登記手続が遅延したためである。右建物の一部が登記簿上産業設備営団の所有名義になつていたことは契約当時被告の充分知つていたところである。

(三)  被告からは担保提供書が提出されたのみで保証承諾書が提出されなかつたために担保提供書も受理されず、結局原告との間に納税保証契約は締結されなかつたのである。

第三、被告の答弁

(一)  被告が訴外会社との間に原告主張二の(一)(二)(三)(四)のような各売買契約をしたこと、原告主張三、の各日時に被告がその主張の各差押通知書を受領したこと、被告が原告主張四、の各日時に原告に対して金一〇〇、〇〇〇円づつ合計金二〇〇、〇〇〇円を支払つたことはいずれも認めるが、被告が訴外会社に対して昭和二十六年九月十二日および同年十月三十一日現在において原告主張のような各債務を負担していたこと、および被告が右金二〇〇、〇〇〇円を原告主張のような趣旨で支払つたことはいずれも否認する。原告主張のその余の事実は知らない。

(二)  被告は原告主張の昭和二十六年九月十二日および同年十月三十一日現在において訴外会社に対し前記原告主張の買受契約に関しなんらの債務も有していなかつた。

(1)  原告主張二の(一)の買受契約物件のうち同二十六年三月七日までに被告が訴外会社より移転登記手続を受けたものは宅地(代価金一、二二九、五六八円)のみであるが、それに対して被告は訴外会社に対し同年一月三十一日に金五〇〇、〇〇〇円、同年三月七日に金一、七〇〇、〇〇〇円、合計金二、二〇〇、〇〇〇円を支払つた。

しかるに右(一)のその他の物件のうちに産業設備営団の所有名義になつている建物(代価金二、〇二二、七六八円)があり、早急にその移転登記手続することが困難であることが判明したので、同年三月七日被告は訴外会社より念書(乙第一号証)を受領し、被告はさらに同年三月三十一日に金七八〇、〇〇〇円を訴外会社に支払つた。

(2)  被告が訴外会社より前記念書を受領した理由は、同二十六年三月七日現在において、前記のように(1)の物件のうち同日までに訴外会社より移転登記手続を受けたのは宅地のみであるのに対し、被告の方で右宅地代金より約金一、〇〇〇、〇〇〇円多く支払つていたので、被告はこの過払となつている金員の担保のために同年三月五日新たに資材を代金九二七、五二六円で買受ける契約を締結し、若し同月三十一日までに被告において産業設備営団名義の建物の移転登記手続を受けられない場合には前記過払金は前記の代金合計九一〇、六九四円と右三月五日の売買契約代金九二七、五二六円総計金一、八三八、二二〇円の債務と相殺返済することとし、その他産業設備営団名義の物件の受渡不能となつた場合の処理約定を明らかにするためにあつたのである。

(3)  被告は同二十六年三月七日までに訴外会社より前記宅地のほか、右(二)(三)(四)の買受契約物件(代価金九八四、〇〇〇円)の引渡を受け、さらに同年六月二十三日までに右二の(一)の前記宅地および産業設備営団名義の建物を除くその余の物件(代価金七四七、六六四円)の引渡を受けた。しかしながら前記念書による約定にもかかわらず訴外会社は約定期日までに産業設備営団名義の建物の移転登記手続を履行せず、また当分その履行の見込みもたたない状態であつたので、同年六月二十三日現在において同日までに引渡を受けた物件の代価金二、九六一、二三二円と同日までに訴外会社に対し支払つた金額金二、九八〇、〇〇〇円とを清算したところ、被告が訴外会社に対し金一八、七六八円の過払をしていることになつた。

そこで同日、買受契約物件のうち、前記登記手続未了の産業設備営団名義の建物については、移転登記の見透しがつくまで一時取引を合意解除すると同時に、同日過払金の担保の趣旨でなしていた同二十六年三月五日の買受契約についてもその必要性がなくなつたので契約を解除した。

その後同二十七年七月に至り被告は訴外会社との間に前記産業設備営団名義の同一物件について再び買受契約を締結し、それに基いて被告は所有権移転登記を受けたものである。

(4)  このように被告は原告の差押をした同二十六年九月十二日および同年十月三十一日現在においては訴外会社に対してなんらの債権も有しておらず、かえつて債権者の立場にあつたものであり、差押通知のあつたその都度支払義務のない旨の回答をしたのである。

(三)  被告が原告に対し昭和二十九年三月三十一日に金一〇〇、〇〇〇円、同三十一年一月十八日金一〇〇、〇〇〇円の合計金二〇〇、〇〇〇円を支払つたのは、被告が原告との間に同二十八年六月二十二日訴外会社の滞納税金一、〇〇〇、〇〇〇円の保証契約を締結したその保証債務の履行として支払つたものであり、原告主張のようにその主張二の(一)(二)(三)(四)の代金債務の履行として支払つたものではない。その余の保証債務も既に消滅している。

すなわち前記二のおり原告の各差押当時訴外会社の被告に対する債権が不存在であり、原告の債権差押が効を奏さなかつたため、原告はその前後処置として仙台国税局徴税係員をして被告に対し訴外会社の滞納税金の納税保証人となることを懇請してきたので、被告はやむなく原告と右納税保証契約をなしたのであり、また前記日時残余金八〇〇、〇〇〇円を免除する約定のもとに前記合計金二〇〇、〇〇〇円を支払つたものである。

第四、立証

一、原告は甲第一ないし第四号証、第五、第六号証の各一ないし四、第七号証、第八号証の一ないし六、第九号証の一ないし一五、第一〇号証の一ないし一三、第一一号証の一ないし五、第一二号証の一ないし四、第一三、一四号証の各一ないし五、第一五、一六号証の各一ないし六、第一七号証、第一八号証の一、二、一九号証、第二〇号証の一ないし三、第二一号証、二三号証の各一、二、第二四号証の一ないし七、第二五号証、第二六号証、第二七、二八号証の各一、二、第二九ないし第三一号証、第三二号証の一ないし三第三三号証第三四号証の一ないし三、第三五号証の一、二、第三六ないし第三九号証、第四〇号証の一ないし五、第四一号証の一、二を提出し、証人菊地文作、板垣照三、白鳥安正、徳能一男の各証言を援用し、

乙第二号証の一、二、第三号証の一、三、第四、六、七号証の各一、二、第八号証、第一〇、一二号証の各二、第一三号証、第一六ないし第一八号証の各成立を認め、乙第一一号証のうち郵便官署作成部分は認めるが、その他の部分およびその余の乙各号証の成立はいずれも知らないと答えた。

被告は乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一ないし三、第四ないし第七号証の各一、二、第八号証、第九号証、第一〇号証の一、二、第一一号証第一二号証の一、二、第一三ないし第一八号証を提出し、証人伊五沢石太郎、橋尻直次郎大ケ生正、小綿恭一の各証言および被告会社代表社沼田権(編注清の誤植)次郎の本人尋問の結果を援用し、

甲第一ないし第四号証の各三、四、第一七号証、第二〇号証の一、第二一号証、第二五号証、第三二号証の一ないし三、第三三号証、第三四号証、第三四号証の一ないし三、第三五号証の一、二、第三六ないし第三九号証、第四〇号証の一ないし五、第四一号証の一、二の各成立を認め、その余の申各号証の成立は知らない。同第二〇号証の一を援用すると答えた。

理由

一、証人菊地文作、同板垣昭三、同白鳥安正、同徳能一男の各証言ならびに公文書であるのですべて真正に成立したものと推定される甲第八号証の一ないし六、第九号証の一ないし一五第一〇号証の一ないし一三によれば、訴外会社が昭和二十六年九月十二日現在同二十五年度の源泉所得税を別紙第一目録記載のとおり滞納していたこと、同年九月十四日原告主張五の(一)のように訴外会社より金一二、〇〇六円一〇銭の納入があり、別紙第一目録第一項の追徴税に内入(ただし甲第一〇号証の一三の追徴税欄に記載すべきを加算税欄に誤記された)されたこと、それで訴外会社が同年十月三十一日現在においては右納入された額を差引いた別紙第一目録記載のとおり滞納していたことが認められ、さらに右各証拠に公文書であるのですべて真正に成立したものと推定される甲第一一号証の一ないし五、第一二号証の一ないし四、第一三、一四号証の各一ないし五、第一五、一六号証の各一ないし六を合せ考えれば、原告主張の五の(二)ないし(七)の事実を認めるに十分である。

したがつて訴外会社が同三十一年十月三十一日現在において同二十五年度および同二十六年度の各源泉所得税を別紙第二、第三目録記載のとおり滞納していたことが認められる。右認定を左右するに足る証拠がない。

次に訴外会社が被告に対し、同二十六年一月二十七日訴外会社大船渡造船所の宅地、建物、諸設備を代金四、〇〇〇、〇〇〇円、弁済期同年三月二十日、同年二月十日、岩手県気仙郡大船渡町字茶屋前一〇二番地家屋番号三四九番の三、木造瓦葺平家建汽缶室一棟建坪二一坪および汽缶室内ボイラー設備一式を代金二二〇、〇〇〇円、弁済期同年三月三十一日、同年二月十日、ガス管、鉄板等一九点を代金四〇〇、〇〇〇円ただし現品検収のうえ精算のこと、弁済期同年三月三十一日、同年二月十日、貨物自動車ほか三点を代金三六四、〇〇〇円、弁済期同年三月三十一日の約定でそれぞれ売却したことは当事者間に争がない。

さらに、証人白鳥安正の証言ならびに公文書であるのですべて真正に成立したものと認められる甲第五、六号証の各一、二によると、原告が、訴外会社において被告に対し原告主張二の(一)(二)(三)(四)のような各債権を有するものとして、同二十六年九月十二日および同年十月三十一日の二回にわたつて右(一)および(二)(三)(四)の売買代金債権の差押をしたことが認められ、右認定を左右するに足る証拠がなく、そしてその差押通知書が同年九月十八日および同年十一月一日にそれぞれ被告に到達したことは当事者間に争がない。

また証人徳能一男の証言および同証言により真正に成立したものと認められる甲第七号証によると、原告が同三十一年十月三十一日訴外会社の滞納している同二十六年度の源泉所得税金一〇九、二七〇円について前記滞納処分による差押債権の取立金より交付を受けるべく国税徴収法所定の交付要求の手続をしたことが認められるのである。

二、しかして原告は訴外会社が被告に対し、第一回差押の同二十六年九月十二日現在において本件売買契約(一)の残代金一、〇二〇、〇〇〇円を有し、第二回差押の同年十月三十一日現在においては本件売買契約(二)(三)(四)の代金計金九一〇、六九四円の各債権を有していたから、訴外会社の滞納税金等の限度において同会社に代位して被告に対し右(一)(二)(三)(四)の代金を(一)から順次支払を求めると主張するのに対し、被告は原告の債権差押をした各日時には訴外会社に対しなんらの債務もなく、むしろ訴外会社に対し、債権を有していた旨抗争するので検討する。

(一)  証人菊地文作の証言、被告会社代表者本人の供述、成立に争のない甲第一ないし第四号証を総合すると、本件売買契約(一)(二)(三)(四)の各物件は契約当初よりいずれも特定しており、本件売買契約の登記簿上訴外産業設備営団所有名義の建物も訴外会社の所有に属していたものであり、当時現場において全物件の引渡を了したのであるから、地に特段の約定の存したことの認められない限り本件売買においては契約成立と同時に各物件の所有権は被告に移転し、また同時に被告は各代金債務を負担するに至つたものと認めるのが相当である。

したがつて被告は訴外会社に対し契約成立と同時に本件売買契約(一)については金四、〇〇、〇〇〇円、同(三)については金二二〇、〇〇〇円、同(三)については金四〇〇、〇〇〇円、同(四)については金三六四、〇〇〇円以上合計金四、九八四、〇〇〇円の代金債務を負担したものといわなければならない。ただ、前記甲第三号証、証人板垣昭三の証言およびこれによつて認められる甲第二二号証の二を総合すると本件売買契約(三)の代金は約定のとおり現品検収の結果、金三二六、六九四円となつたことが認められるので合計金四、九一〇、六九四円となる。

(二)  次に被告の訴外会社に対する代金の支払状況についてみるに、証人板垣昭三の証言によつて成立の認められる甲第二二、二三号証の各一、二、第二四号証の一ないし七、成立に争のない甲第一号証第三三号証、乙第一三号証、第一六ないし第一八号証を総合すると、被告が訴外会社に対し同二六年一月三十一日に約定の契約金として、金二〇〇、〇〇〇円二口、田中利兵衛名義で金一〇〇、〇〇〇円の合計金五〇〇、〇〇〇円を支払い、さらに同年三月七日に金一、〇〇〇、〇〇〇円と金七〇〇、〇〇〇円合計金一、七〇〇、〇〇〇円、また同年三月三十一日に金七八〇、〇〇〇円以上合計金二、九八〇、〇〇〇円をそれぞれ支払つたことが認められる。ことに右乙第一六号証の受領証には「但契約金」とあり、これは甲第一号証の売買契約書第四条の契約金としての支払に対するものであり、また乙第一七号証の受領証には「但施設売却代内入として」とあることなどからこれら合計金二、九八〇、〇〇〇円がすべて本件売買契約(一)の代金四、〇〇〇、〇〇〇円の内入金として支払われたものであることが明らかである。

(三)  ところで乙第一号証念書を証人菊地文作、同板垣昭三、同小綿恭一の各証言、被告会社代表者本人の供述と総合してみると、本件売買契約(一)のうち宅地についてはその移転登記を完了したが前記認定のとおり昭和二六年三月七日までに被告が訴外会社に支払つた金額は同日支払の一、七〇〇、〇〇〇円とも合計金二、二〇〇、〇〇〇円であり、右宅地代金を上回りこれを「過剰受領」となつたと称し、訴外産業設備営団所有名義の建物の移転登記手続をなすべき期限を同年三月三十一日までとしたうえ、それまでに登記手続をしない場合には、本件売買契約(二)(三)(四)の代金九一〇、六九四円と同年三月五日訴外会社が被告に対し資材を弁済期同年三月三十一日の約で売却したその代金九二七、五二六円との合計金一、八三八、二二〇円と右過剰受領金と相殺することその他の趣旨を記載した右乙第一号証念書を訴外会社大船渡造船所長菊地文作が被告に差入れたことが認められるのであり、これを要するに、乙第一号証記載の趣旨は、第一に被告側において本件売買契約(一)の当初の契約条項を改めて建物の移転登記と引換えにその代金を支払うことにしたこと、第二に産業設備営団名義の建物について移転登記手続の期限を同年三月三十一日までとし、若しそれまでに移転登記手続をしないときには右不履行を解際条件としていわゆる過剰受領金と本件売買契約(二)(三)(四)の代金および三月五日の売買代金と相殺することにし、産業設備営団名義の建物についての売買契約を解消することの合意をした趣旨に解せられるのであり、同年三月三十一日までに産業設備営団名義の物件の移転登記がなされなかつたことは成立に争のない甲第三九号証、第四〇号証の一ないし五、第四一号証の一、二証人菊地文作の証言被告会社代表者本人の供述によつて認められるのであるから、はたして右乙第一号証の趣旨のような合意が成立したものとすれば、同年三月三十一日限り、訴外会社と被告との間の取引関係は一切解消され、その後被告は訴外会社に対し本件の売買契約に関し何らの債務をも負担しないことになるのであるが、この点に関し被告は産業設備営団名義の建物についての売買契約が同年六月二十三日まで存続し、同日訴外会社と合意解除したと主張しており、被告自身も乙第一号証の記載のとおりの解釈をしていないのであるから、同号証記載どおりの合意が真実成立したのかどうかさらに審びらかにする必要がある。

(1)  証人菊地文作の証言および被告会社代表者本人の供述によれば、

(イ) 本件売買契約の事情が、当時訴外会社が事業を閉鎖し財産処分を公告していたところ、訴外会社の大船渡船所長の菊地文作と被告会社の代表者沼田権(編注清の誤植)次郎が商船学校の同級生だつた関係等から被造告が他に転売の目的で右訴外会社の財産を買受けたものであること。

(ロ) 当時本件売買契約の売買物件のうちの建物 の大部分が登記簿上産業設備営団の所有名義になつていたことは、当時被告において菊地から聞いており、右建物の所有権移転登記には相当の日時を要することが予想されていたので、右売買契約(一)においては、前示認定のように、代金の支払時期を約定したが、その所有権移転登記手続の時期については特に明らかにしなかつたことが窺いえられる。

したがつて本件売買契約(一)の趣旨は、訴外会社の所有権移転登記手続の有無にかかわらず被告において同年三月三十一日までに約定代金を支払う義務があつたものといわなければならないから、乙第一号証中に「今般土地のみ移転登記を完了し契約金の外金一七〇万円也を受領候処建物等登記を要する物件が未だ移転登記の運びに至らず代金過剰受領と相成申候」とあるのは、結局同年三月七日現在の移転登記済等物件の価格に比較し支払代金額が過大であるとの趣旨にすぎないものであり、契約金の外一、七〇〇、〇〇〇円也の受領をもつて法律上過剰受領とするのは前記菊地の誤解といわなければならない。

(2)  前記同年三月三十一日限り本件売買契約(一)が解消していないことは前述のように被告も認めているいころであるばかりでなく、成立に争のない乙第二、三号証の各一、第一八号証、証人小綿恭一の証言によつて真正に成立したものと認められる同第一〇号証の一、二、第一一号証によれば、同年三月三十一日前示認定のように施設売却代内入として金七八〇、〇〇〇円を支払つているばかりでなく、その後被告および訴外会社の発信の文書に産業設備営団名義の建物の移転登記義務の存続していることを前提とする文句が記載されていること。

(3)  成立に争のない甲第三九号証、第四〇号証の一ないし五、第一四号証の一、二乙第七号証の一、二、第八号証公文書であるので真正に成立したものと推定される同第二六号証、証人板垣昭三、同白鳥安正、同徳能一男、同菊地文作の各証言、被告会社代表者本人の供述によれば、被告が昭和二十六年夏ごろから同二十七年一杯にかけて産業設備営団名義の建物の一部を取毀して他に処分したこと。

(4)  成立に争のない甲第二〇号証の一、第二一号証、第三二号証の一、二、三証人白鳥安正、同徳能一男、同菊地文作の各証言、右各証言により真正に成立したものと認められる同第一九号証、第二〇号証の二によれば、本件第一回差押以前に仙台国税局国税徴収官白鳥安正が訴外会社の被告に対する債権を調査の際訴外会社において本件売買契約(一)の代金の残額が一、〇二〇、〇〇〇円であると述べており、またそのような記載のある書類も見受けられること。

(5)  彼告が昭和二十六年六月二十三日産業設備営団名義の建物に関する本件売買契約(一)を合意解除し、その後同二十七年七月さらに売買契約したと主張するが、本件売買契約の代金四、〇〇〇、〇〇〇円が売買物件全部について包括的に決められており、各物件ごとに決められてないことを前記甲第一号証によつて明らかであるから、産業設備営団名義の建物の代金をどのように決めるか困難な問題であるばかりでなく、前記乙第一号証と被告会社代表者本人の供述以外なんら右被告の主張事実はもとより右事実を前提とする間接事実すらこれを認めるに足る証拠がない。

(6)  前記乙第七号証の一、二第八号証甲第三九号証四〇号証の一ないし五第四一号証の一、二証人菊地文作の証言被告会社代表者本人の供述によれば、被告が昭和二十六年三月三十一日後も引続き前記産業設備営団名義の建物の所有権移転登記手続を催促しており、昭和二十七年七月十七日その登記手続を了したこと。

(7)  被告が後段三説明のとおり原告に対し昭和二十九年三月三十一日および同三十一年一月十八日金一〇〇、〇〇〇円づつ合計金二〇〇、〇〇〇円を支払つたこと。

以上の各事実が窺いえられ、右各事実を総合するときは、乙第一号証記載の合意により昭和二十六年三月三十一日限り本件売買契約(一)(二)(三)(四)が解消したことは、その解消原因事実自体はもとより解消を前提とする間接事実すら乙第一号証と被告会社代表者本人の供述以外にこれを認めるに足るものがないのに右昭和二十六年三月三十一日以後にも右契約関係の存続していたことを窺わせる数々の書跡があるのであるから、右乙第一号証のみによつてにわかに前記被告主張事実を認めるに足るものとすることができない。

なお乙第一号証によれば昭和二十六年三月三十一日まで移転登記をしないときは、それによる損害は本件売買契約(二)(三)(四)の代金と同年三月五日の売買代金との合計金一、八三八、二二〇円の範囲において被告の査定した額を被告に支払うことの趣旨の記載があるが、本件売買契約(一)の契約物件のうち建物が登記簿上産業設備営団名義になつておりその移転登記に相当の日時を要することは当時被告の承知していたものであること前示認定のとおりであるから、右相当期間の遅延による被告の不利益については被告において損害として請求することのできないのはもちろんであり、それ以外に本件原告の差押通知までどのような損害を被つたかは被告の全立証によつても認めえないところである。

したがつて乙第一号証により、本件売買契約(一)の契約物件のうちの建物については移転登記と引換えにその代金を支払うべきことに変更されたものとして、昭和二十七年七月十七日その移転登記手続も完了した今日においては、その理由をもつて代金の支払を拒否することはできないものといわなければならない。

(四)  乙第四、五号証の各一、二第九号証による納税保証に関する判断については後段説明のとおりであり、右乙号各証によつても前記被告主張事実を認めるに足らない。

乙第一四、一五号証は本件売買契約(一)(二)(三)(四)と別個の売買に関するものであり、右乙号証によつても右被告主張実事を認めるに足らない。

右被告の主張に副い、もしくは副うかのような証人伊五沢石太郎、同橋尻直次郎、同小綿恭一の各証言部分、被告会社代表者本人の供述部分は前記各証拠に照らしにわかに信用することができない。

はたしてそうだとすれば、本件第一、第二回の差押当時訴外会社は被告に対し本件売買契約(一)の代金の残額一、〇二〇、〇〇〇円および同(二)(三)(四)の代金合計九一〇、六九四円の債権を有していたものといわなければならない。

三、次に原告は本件差押により訴外会社に代位して裁告に対し本件売買契約(一)(二)(三)(四)の代金債権の取立権能を取得したので、被告に対しその支払を求めたところ、被告が昭和二十九年三月三十一日および同三十一年一月十八日金一〇〇、〇〇〇円づつ合計金二〇〇、〇〇〇円を支払つたが、被告も原告も弁済の充当を指定しなかつたので法定充当により本件売買契約(一)の代金に充当されたと主張するのに対し、被告は被告が昭和二十八年六月二十二日訴外会社の滞納税金一、〇〇〇、〇〇〇円について納税保証をし、その保証債務の履行として支払つたものであり本件売買契約(一)(二)(三)(四)の代金債務として支払つたものでないと抗争するので、被告主張の納税保証事実について考える。

乙第四、五号証の各一、二第九号証によれば被告主張の納税保証事実を認めえられるような記載があるが、成立に争のない甲第二五号証証人徳能一男、同大ケ生正の各証言を考え合せると、右乙号各証によつても、原被告間に昭和二十八年六月ごろ納税保証に関する折衝のあつたこと以上の事実を認めるに足るものとすることができない。

この点に関する証人伊五沢石太郎、同橋尻直次郎の各証言部分被告会社代表者本人の供述部分は前同様にわかに信用することができない。

他に被告主張の納税保証事実を認めるに足る証拠がない。

そうだとすれば前示被告の支払つた合計金二〇〇、〇〇〇円は原告主張のように法定充当により本件売買契約の残代金一、〇二〇、〇〇〇円に充当されたというべく、右売買契約(一)の代金の残額は昭和二十八年一月十八日現在右金一、〇二〇、〇〇〇円から金二〇〇、〇〇〇円を控除した残額金八二〇、〇〇〇円となつたものといわなければならない。

四、そうだとすれば原告は訴外会社に対する前示昭和二十五年度滞納税金等一、二六九、三三八円に基いて同会社の被告に対する前示各債権について前示のように滞納処分による差押をなし、被告にその通知書を送達した以上、国税徴収法第二三条の一第二項により訴外会社に代位して右滞納税金等の限度において被告に対し、本件売買契約の代金の残額金八二〇、〇〇〇円同(二)(三)(四)の売買代金の取立の権能を有するものといわなければならない。

なお原告が交付要求によつても滞納処分による差押の場合と同様前記国税徴収法の法条により代位しうべきものと解しているとすれば、交付要求は差押とは異るから、交付要求をしたからといつて当然同法条により代位しうべきものということはできないが、交付要求も租税債権に基いて税金の徴収をなすものであり、このような租税債権者もその債権を保全するため民法第四二三条により納税義務者の第三者に対する売買代金等一般債権の代位請求をなしうべく、この場合通常優先権を有する租税債権者の代位として、納税義務者の無資力であると否とにかかわらず保全の必要あるものと解されるから、結局原告は前示交付要求をした昭和二十六年度滞納税金一〇六、二七〇円の限度においても前同様訴外会社に代位して被告に対し本件売買契約(一)(二)(三)(四)の残代金の取立の権能を有するものといわなければならない。

よつて原告が訴外会社に代位して右昭和二十五、二十六年度滞納税金等合計金一、四七八、六〇八円の限度において被告に対し本件売買契約(一)の代金残額金八二〇、〇〇〇円、同(二)(三)の代金合計金五四六、六九四円および同(四)の代金の内金一一一、九一四円合計一、四七八、六〇八円の支払を求める原告の本訴請求は正当であるからこれを認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 村上武 裁判官 須藤貢 裁判官 山路正雄)

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